2011/05/03
■ [*band][ファンタジー]Thuringwethil, the Lady of Illusive Shadow 'V'
「レイシアンの歌か…今思えば、よくもここまで美談に取り繕ったものよ」 青のアラタールの抑揚は明らかに、羊皮紙に描かれた詩を小馬鹿にするものだった。 「だが、限度というものがあるぞ。いかに白亜の韻律に塗りこめようともその異臭は消 しようもない。考えてみるがいい、たかがエダインの男と半マイアの女がフェアノール の一族にも成せなんだ偉業を成す…口あたりのいい話だが、有り得ると思うのか?一つ しか取り戻せなんだのは運命ゆえ?白々しいことだ。何よりも不死の者がなぜ人の死に 至ったのだ?愛する人の子の命と引き換えに?冗談もほどほどにしておけ」 詩文を破り捨てるアラタールの声には、さらに底知れぬ怒りが加わっていた。 「スリングウェシルの名が何たるかを知らぬものよの。東方に広がる無辺の大地を輩の 馬達と駆け巡った私の知る限り、あの女はまだ生きている。否、全てがあべこべの話、 この時より生まれたのだ。神々しいまでの淫蕩と退廃を司る性愛の神、ウルクとアヴァ リの快楽の守護者。あらゆるものとまぐわう暗き女。メルコールはあの半マイアの女か らその影を引きずり出し、己が愛妾に加えたのだ」