2011/05/12
■ [読書][小説]ロジャー・ゼラズニィ『影のジャック』
変愚でお馴染みアンバーシリーズだけでなく短編も少し読みこなしておきたいと思い、Amazonの中古で購入。コーウィンやマーリンと並んで、ゼラズニィの描く英雄ってのは大抵こんなモンなんだなと言うのが良く分かった。やはり自分のエゴで能動的に動く主人公は、どんな奴でもすっきりして大変よろしい。その先にあるのが栄華か破滅か、はたまた全く別のオチがつくかが予想がつかない刺激がたまらない。
本作の主人公ジャックも、自分のやりたい事、手に入れたい物のためなら、あらゆる者を敵に回し、邪魔する者へ復讐することを躊躇わないエゴの塊である。しかも魂を持たない暗黒界の住人であるから、死んでも死なない。首を切られても堆積穴と呼ばれる暗黒界の腐敗に満ちた穴から蘇っては、その間の飢えや苦痛をもたらした相手に報復する。最終的に変愚のmonspeak.txtで思わせぶりに語った「コルウィニアの鍵」を手に入れて好き勝手ぶりは最高潮に、そしてその果てに自身の超人的能力や、世界観の根底を揺るがす破滅が始まって…というある意味ひたすら投げっぱなしの展開である。
訳者後書きによれば、この作品はゼラズニィの過渡期的作品で、当初はゼラズニィオワタと言われるほど酷評されがちだったという。ただ、後々にアンバーシリーズの生み出すには必要な過渡期と思わせる要素は多く、個人的にはこういう濃いキャラが互いのエゴに凌ぎを削りバタバタする展開が好きなので、不満はなかった。そんな登場人物も作者に同程度に愛着を持たれて、同程度に突き放されている、そんな調子でもあるから主人公が好き勝手絶頂でも鼻につく感じはしない。