2011/01/10
■ [ファンタジー][*band]トールキン・ファンタジー世界の根本存在
トールキンの準創造世界は一見多神教に見えて、その実極めて厳格なエル・イルーヴァタールによる一神教的(さらに言うと一元論的)構図を備えている。これを主張するに、まだあれこれ論証するべき点があると思われるが、それを包括的に語るのは別の機会に置きたい。今回はその話の一部として、シルマリルの物語の『アイヌリンダレ』の項の初期について興味深い点を備忘する。
この項のタイトルが意味する通り、アルダという地続きの世界とそれが存在するエアという空間は『アイヌアの歌』によって構築された。だが、その時間軸からさらに遡ると邦訳版において『炎』と呼ばれているものがいくらか言及されている。実の所アイヌア時代のメルコールの最初の振る舞いも含め、この『炎』は「創造の権限」として極めて重要なキーワードになっていることが何となく分かるだろう。
Secret Fire - Wikipedia, the free encyclopedia
英語版Wikipediaからも参照できる通り、これは"Secret Fire"と列記とした用語として認知されており、やはり創造の第一原理とみなされている。そもそも神話の時代の流れとして、メルコールがウンゴリアントと共に枯らした「二本の木の時代」以前に、この「秘密の炎」をそのままかがり火にしたと思しき「二本の灯火の時代」があったり、何よりもかの有名なシーンでガンダルフ自身が己を「秘密の炎」の番人と言及している訳である。
"You cannot pass," he said. … "I am a servant of the Secret Fire, wielder of the flame of Anor. The dark fire will not avail you, flame of Udun. You cannot pass."
この炎はしばしば、ガンダルフがキアダンから預かったナルヤの炎の力と間違えられていることもあるようだが、二本の灯火⇒二本の木⇒太陽(Anor/アノール)と月という神話的変遷、またバルログという第一紀からの存在に向かって言う点においても、第二紀に作られた指輪でなく、上古の事物として秘密の炎の事とみた方が妥当と思われる。
後々ガンダルフがイルーヴァタールの介入と思しき形で復活するところから見ても、この時のガンダルフは、まさに秘密の炎によって正統な創造の権限を持っている者(イルーヴァタール)の使者として、メルコールが作ったと思われる、できそこないの創造の炎(ウドゥン)をまとっているバルログに立ち向かっているという、そんな構図にトールキン教授は仕立て上げたと見ていいだろう。
この秘密の炎、真世界アンバーシリーズで言うところの〈パターン〉や〈ログルス〉に匹敵するキーワードであると思うのだが、やはり作中での言及がそれらよりも少ないこともあってか、*band系ローグライク内でウドゥンの炎共々、何らかの言及やデータ的反映にされている様子はない。正直もったいないとは思う。