2011/07/13
■ [映画][ファンタジー]ベオウルフ 〜呪われし勇者〜
ちまたで聞いた、アンジェリーナ・ジョリー演じるグレンデルの母ちゃん役がえろいとの不純な動機で手をつけた本作。CGが安っぽいだの何だのとあれこれ否定的な評価も聞いていたが、雑多な宴の風景から冬の都市に至るまで全体的な空気の統一感はかなりいい按配で初見で文句の言える点は何もなかった。
トールキンのファンタジーとしての創作、そして専門の古英語の原点となった原作の叙事詩は、まだ本格的に原典を読みきってはいない。だが確認している話を正直そのまま映画にしては、やはり何の欠陥も不都合もない英雄が化け物退治を若年と老境に2度やって、何もかもに祝福されて終わるというひどく無味乾燥な話になるだけだったはずだ。それを原典上でも存在的な脈絡がかなり不明のままになっているグレンデルの母ちゃんを通じて、見事に噛み合わせたのが本作の真骨頂と言ってよいと思う。
フロースガール王からの重臣アンファースを通じて匂わされている、信仰がオーディンからキリスト教へと変遷していってる要素も面白い。特典のメイキングムービー中でも言及されているが、元々土着の口承で伝えられていたベオウルフの伝説が、我々の眼に止まる最古の文献となった際にはキリスト教修道士の手があった。そうである以上、その物語の内容が口承から著しく変化している可能性がある訳だ。
ある意味で、本作の展開はそういう土着の神話としてはかなりありきたりな話でもある。ベオウルフという一個人が実際の所どのような存在であったかが秘され、伝説になっていくことをメタに捕らえる構図。そして物語のラスト、グレンデルの母ちゃんというエグさに満ちた女性的怪物が、決して滅ぼされることなく、どこかでひっそりとほくそ笑んでいるかのような引きがたまらなくいい。
正直、他人に勧めるなら手軽に見れる上に深い点で、映画版LoTRよりこっちを押したいと言うレベルの評価を送りたい。