2011/06/11
■ [*band][小説草稿]D'angbandバックストーリー(プロローグ6)
ペース上げるべきかいな。
■プロローグ・6
我々が後の客人達の姿をおおよそに吟味している間、エルフの貴人に指図を受けた北方人風の従者─あの狂眼持ちの男が、組み立て式の椅子を我々の背後に人数分用意していた。エルフの貴人に促された我々は各々に腰を落ち着けた。
エルフの貴人、彼が最初から招いていた客人、そして我々。流石に体格様々な11名が一室に集うと、この『キャンピングカー』の一室もいささか手狭な位になる。
それにしても、清潔で温かみのある光に彩られた一室。こんな別世界のように快適な馬車のような何かをもって、どのように彼等が「旅」をしているのか。この時点では全くもって想像できなかった。
「さて、皆様。初対面同士がこうやって顔を合わせたからには、まず互いに名と立場を名乗るのが、本来広くに通じる作法であると思われるのですが…」
エルフの貴人が、ドゥネダインの隣の席に立ち我々と客人達を仲介する調子で、西方語で会話を進めた。客人は最後の二人も含めて全員我々の言葉を熟知していたのだろう。エルフの貴人は我々の方に一つの依頼を語りかけた。
「あなたがたから見れば、我々は随分と奇妙な一行に見えることでしょう。実際、我々はあなたがたのお持ちの見識から説明をするには、色々と順を追って長い話をとうとうと重ねなければなりません。その上、具体的な名前と身分を明かすには、何かとややこしい話が多い立場にありまして」
彼がそう説明している間に、狂眼持ちの従者は事務的な態度のままに、奥の一室から食欲をそそる匂いのする何かを盆に載せて持ち出してきた。
肉や香菜の細かく砕かれた具が入ったスープだった。大鍋一つに、取っ手のついた金属製の杯、そしてスプーンが6人分。我々より一つ余分に用意されていた。
「失礼」
一旦話を中断したエルフの貴人は、余分に用意された杯に軽く数口分をよそい一気に飲み干すように口にした。説明するまでもなく、我々の眼前に見せた毒見だろう。我々を素直に歓待する意があり、悪意がない事を当然のものと示したのだ。
こういう風習は我々の故郷でも普通にあったし、この近辺の異邦でも全く自然な形で存在していた。他者不信の関係を解消していく儀礼としてはごく普遍的なものなのだろう。客に与える時点にのみ毒を加える手段など、他にいくらでもあるだろうが、疑えばキリがない。
ましてや、長い旅程の途中、火を焚く場もほとんど得られず、もっぱら水気も油気もない干し肉やパンばかり齧っていた我々である。例え良からぬものが入っていると予め告げられていたとしても、このはたまた魔法のように用意された馳走の誘惑を、完全に振り切れたか自信はない。
手渡されたスープ入りの杯から上がる湯気。その芳香に違わずつけた一口は鮮烈だった。どんな穀物を挽いて調味料を加えたのか、まるで検討のつかないが、ともかく色濃く深い味。
これより前に味わった食事らしい食事は何かとふと思い出した。何年も昔、故郷の出立の際に催された宴の折だった。市民達から用意された、しかしどこか待遇の悪かったすじ塗れの肉や悪酔いのしやすそうな葡萄酒が思い出されて、何となく惨めになってしまった。