2011/06/09
■ [*band][小説草稿]D'angbandバックストーリー(プロローグ5)
ちょっと間が空いた上に話がちょびちょびとしか進まない。
■プロローグ・5
我々から見て右手の残る二席に、男女の客人がいた。私達に頑なな態度を見せるでも、好奇の念を向けるでもない。まずは男の方が私達の存在をわずかに一瞥したのみで、薄く滑らかな玻璃の杯に注がれた蜜酒を飲み交わし、干し肉のようなものを摘みながら、互いに睦み合うことに夢中のようだ。
夫婦か、深く誓い合った恋人同士の関係なのであろうか。いずれにせよ、人前でこのような振る舞いを見せることは我々の故郷の道義においては、憚られるものだ。
もっとも悲しいことに、我々はこのような退廃的な光景に慣らされてしまった嫌いもあった。ここにたどり着くまでの各都市、異郷の風習として桁外れにおぞましい光景を何度垣間見たことか分からない。
人間や『小エルフ』達がオーク達やそれ以上に醜い『けだものびと』達とすらも平気で雌雄交わり貪り合う光景。それと比べれば品はともかく、男女共に見目麗しく、まだ直接の行為に及ばず肌を触れ合わせる程度だけ却って心和ませるものと言えたろうか。
男女の種族は異なるようだった。
男の方は黒髪長身、この「キャンピングカー」の主であるのと同じような背丈と顔つきから、やはり我々の知る所のエルフなのではないかと思われた。一般の伝承の印象に拠るならばノルドールそのものの姿である。主の容姿と同様、彼等が我々の知るエルフそのものなのかどうかは、やはり服装の違いもあいまってややこしくなるばかりで、話を切り出すにもまだ不躾に思われた。
女の方は、これはとんと種族の検討がつきかねた。桃色の乗った銀髪というのは、我々の故郷はおろか、旅の途中の異邦でもあまりに珍しい。体格は我々の故郷の人間よりいささか高めで、豊かな胸と、数多くの芸術家の創意を凝らして作り上げたかのような体つきが、男ばかりの我々を誘惑した。その扇情的な露出の服装がまた悩ましくすらある。
その美貌の効用がいかほどか彼女は自覚しているのだろう、我々に軽く流し目を見せて、その視界をくらりと揺るがせた。
男の方が、まるで分からぬ言葉で女をたしなめたようだ。我々に色目を使うのは確かに男の方とて快くあるまい。抜けた毒気を散らすように視線をそらせば、最初のドゥネダインもどきの初老の男が、ともすれば我々を値踏みした時以上に冷ややかな目で彼等を見ていた。
少なくとも禁欲を善しとする方向で、我々と彼は近づける相手であるように思えた。