2011/06/05
■ [読書][歴史][ファンタジー]マナス 青年篇 キルギス英雄叙事詩
うっかり少年篇、青年篇、壮年篇とあるうち、真ん中の青年篇だけを買ってしまい、余り全体に言及できず斜め読みな感じは否めない。が、それでも言える事はあるのでネタにする。
一言で言うなら、中央アジア版「アーサー王の死」である。伝説的な英雄マナスがひたすらに異邦の敵をぶちのめしていく。ただアーサー王伝説は、マロリーの手でまとめられるまでに、様々な民族や宗教の紆余曲折が絡んで、それで洗練されてたり、逆に捻じ曲がっている事が多い。一方こちらの「マナス」は一貫してキルギス人の、キルギス人による、キルギス人のための英雄で、ひたすら口承されてきたものが、つい最近になって文章化されたものであるから、良くも悪しくも荒削りな印象がある。
ただ両者にひたすら共通していて、古今東西の叙事詩とか伝説にも及ぶ点がある。まだ人類が法治という恩恵を必ずしも得られなかった頃、自力救済によってしか、自分や血族、財産や女を守れなかった時代の馬鹿正直な願望。力が欲しいという、切実な願いを善悪以前の問題として描いてる点である。
「マナス」のそれこそ中二的設定を彷彿とさせる荒唐無稽な魔法や、やたら桁数の多い兵数もその背景を思えば、何となく許せてしまう。先日語った「ペガーナの神々」のように文学的に洗練されたものとは、全く別方向性かつ原型的に地に根付いたファンタジーである。
民族的イデオロギーにどっぷり漬かっていながらも、逆に正直にそれしか望んでない(少なくとも反感を買いかねない記述で、そこに自分達「だけ」が正しいことを証明したがるような浮気心を持ってない)からこそ素直に読めるのだろうと思う。